赤不動 あかふどう 黄不動 きふどう 青不動 あおふどう

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絹本着色不動明王童子像(赤不動)

あかふどう(赤不動)

不動明王の全身を赤色を以て彩りて画けるを以てかくいう。紀州高野山明王院の所蔵にて世に智証大師が横河葛河瀧に於ける感応を頭血を注いで画いたものと伝へて居る。爛々たる巨眼、強く結んだ口、厳然たる威容、勁さ恐ろしさ、如何なる悪鬼外道も摺伏せしめねば已まぬものがある。両側に侍立せる両童子は亦智と徳の具象を現はす、背後に燃ゆる火焔も亦物凄ぐ荘厳を極めて居る。蓋し崇高無比の大芸術と称ずべきであろう。尚不動明王の条参照せよ。

 

『画題辞典』斎藤隆

 

本尊の赤不動明王は、いわゆる感得像で、赤い身色の不動明王を二童子と共に描いた画幅です。弘法大師の甥に当たられる方で、後に天台の座主にもなられる智証大師円珍和尚が、修行中に感得した不動明王の姿を、その余りの有り難さに自分の頭を岩に打ち付け、岩絵の具に頭血を混ぜて写しとられたと言われています。

 

高野山別格本山明王院

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金色不動明王画像(黄不動尊

きふどう(黄不動)

不動明王の身体を金色にして描きたるものなり。

近江園城寺に在るもの、智証大師円珍の感見したるものを空光に画かしめたるものなりという。普通の坐像の形相と異なり立像にて怪異の形相を備えて居る。高野山の赤不動と供称されて密教芸術の優品と推さる。京都曼珠院所蔵のもの亦此と同一種のものにて藤原時代の優秀なるものなり、共に国宝なり。

 

『画題辞典』斎藤隆

 

三井寺の黄不動は日本三不動の一つに数えられています。
三善清行撰の「天台宗延暦寺座主円珍伝」によると、 承和五年(838)冬、山中にて修行中の円珍の目前に「魁偉奇妙(かいいきみょう)」な「金人(きんじん)」が出現し、 円珍は直ちに画工に命じて写し取らせたといわれています。
これにちなむ黄不動画像はいくつか伝えられていますが、 三井寺の最古本はその原本とされています。 

特徴
胸に条帛(じょうはく)を着けず、天を向く二牙を持ち両目をカッと見開く図像は、 まったく儀軌にあてはまらないものです。
隆起した筋肉質の体といい、足下に何も踏まない構想といい、 いかにも虚空示現の伝説にふさわしいものです。

 

長等山園城寺 三井寺

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絹本着色不動明王童子像(青不動)

あおふどう(青不動)

京都市東山区粟田口(あわたぐち)三条坊町にある青蓮院(しょうれんいん)所蔵の不動明王童子像の通称。国宝。絹地に着色で描かれた不動の身を青黒色に表しているところからこの称がある。青色あるいは青黒色は調伏(ちょうぶく)の意味をもっているといわれる。火生三昧(かじょうざんまい)に入る忿怒(ふんぬ)相の不動の背後に、燃え盛る炎を朱、丹(に)、黒をもって精妙に表し、茶褐色の頭髪は繊細な金泥の線をもって毛筋を入れている。不動の両脇(わき)にその使者である矜羯羅(こんがら)、制迦(せいたか)の二童子を配し、三角形の安定した構図をとる。洗練された鮮やかな彩色と、伸びのある描線は、藤原期の仏画の特色を示しており、この期に活躍した絵仏師円心(円深、円信、円尋とも書く)の筆法に似ているところから、作者を円心に比定する説がある。円心の真筆は現存しないが、醍醐(だいご)寺の不動明王図像や『別尊雑記』に転写したものが伝えられている。これを円心の作とみるかどうかは別にしても、高野山の赤不動、園城寺(おんじょうじ)の黄不動とともに、不動明王画像の名品としてばかりでなく、仏画のなかの名作として高く評価されている。[永井信一]
『亀田孜著『青不動画』(『日本仏教美術史叙説』1970・学芸書林・所収)』

 

日本大百科全書 小学館

 

青不動の姿をみると、頭部は醍醐寺本不動巻中の玄朝様不動御頭とそっくりだが、これは背筋を伸ばして岩座上にどっかりと坐り、堂々たる威容を示す。ここには玄朝様の十九観を基にしながら、いたずらに軽妙に走らず、絹本着色の本尊画像としての尊厳性を保持している。その肉身は濃茶褐色の絵絹の地色を生かして、これに群青の隈取りを付け、不動の不気味な肉身をあらわすが、九世紀の不動にみられた充満肥盛から、いかにも藤原風の均整のとれた体付きへと変貌を遂げている。この不動をしてその霊験の力を弥増さしめるうえで効果を放っているのは、その見事な迦楼羅炎光であろう。それは横向きの迦楼羅七羽が、次第に形を崩しながら左右に落下するさまを、朱と丹の炎に淡墨を添えて描き、目も覚めるような壮麗な火炎光を形成する。醜い青黒色の不動の姿は、この火炎光を背景にして、調伏法の本尊たる不気味な呪術力を劇的に表現することができたのである。

 玄朝様にうかがえた軽妙さとおかしさは、不動から去って二童子に移り、そこで実に鮮やかに結実した。小心者の矜羯羅、悪性者の制咜迦の表情姿態は、玄朝様を正しく継承し、不動の恐るべき威容とよき対称となっている。

 

『日本の美術』No.238不動明王像 中野玄三 至文堂 1986

 

さんふどう【三不動】
① 高野山明王院の赤不動、大津三井寺の黄不動、京都青蓮しようれん院の青不動の三つの仏画の総称。
② 東京の、目黒不動目白不動目赤不動の称。