朝顔・牽牛花 あさがお・あさがほ

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朝顔図屏風 鈴木其一

あさがほ(朝顔・牽牛花)

1

朝顔の文字が一般に用ひられてゐる、旋花〈ひるがほ〉科に属する一年生草本で、最も普通に知られてゐる夏の花である、元は熱帯産であるが、支那を経て日本に渡来し、初めは薬用として牽牛子〈けにごし〉の名を以て呼ばれてゐた、よく一般に『万葉集』の柿本人麿の歌

朝かほは朝露おひて咲くといへど夕かげにこそ咲きまさりけれ

山上憶良の秋七草の歌の朝貌が問題になるが、これは桔梗のことらしく、今日いふ朝顔でないことは、これまでいろ/\現はれた学説によつても明かである、牽牛花は、牽牛星の現はれる頃咲くからの名、別に『蕣』の字も用ひてゐる、茎が左巻きであると共に、蕾が右に巻いてゐることも顕著なことである、許六の『百花譜』に、

朝顔の盛りすくなきは、よき女の常は病がちに打なやみ、土用八専のかはるかはる隙なきに打ふし、一月の日数も二十日はかしらからげに引込たるが、たま/\空晴れきり朝日さし出でたるに心地よげに打粧ひ、衣裳などあらためて、ほのめき出たるには似たり。

と書いてゐるのは面白い。

 

『東洋画題綜覧』金井紫雲

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風俗三十二相 めがさめさう 弘化年間むすめの風俗 月岡芳年

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光琳画譜 尾形光琳

あさがほ(朝顔

2

山田案山子作翠松園校補の戯曲、『生写朝顔日記』の女主人公、秋月弓之助の娘深雪は宇治の蛍狩りで宮城阿曽次郎といふ美しい侍と恋に落ちたが、秋月一家は国許に騒動が起つて帰国することゝなり、深雪と阿曽次郎は明石の浦にはかない船別れをする、それから深雪は阿曽次郎に思ひ焦れ、つひに目を泣きつぶし朝顔と呼ばれ門附となり、国々をさすらふ中、東海道島田の宿でゆくりなくも阿曽次郎の駒沢次郎左衛門にめぐりあふのであるが、盲の悲しさにそれがわからず、駒沢は『朝顔露の干ぬ間』と画いた扇子を渡す、やがて旧臣であつた宿屋の主人徳右衛門の忠節で眼は開き目出度く駒沢と祝言することになる。

 

『東洋画題綜覧』金井紫雲

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当盛見立三十六花撰 唱歌の朝皃(あさがお) 秋月の娘深雪 歌川豊国

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蕣物語(あさがおものがたり) 機臨衆目視歌案(とりまぜてみたてけんだい)歌川豊国

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蕣物語  機臨衆目視歌案 歌川豊国

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娘深雪 上村松園

 歌舞伎作品をもとにした浄瑠璃『生写朝顔話』より、主人公の深雪を描く。安芸国の家老の娘・深雪は、宇治川で蛍狩りの際に出会った武士・宮城阿曾次郎と恋仲になる。この作品は、「露のひぬ間の朝顔を、照らす日かげのつれなきに、哀れ一むら雨のはらはらと降れかし」と阿曾次郎が書き付けた扇子を深雪が取り出したところに足音がして、思わず扇子を隠した場面を描く。

 

美人画の系譜』小学館 2011