厳島 いつくしま
いつくしま(厳島)
安芸国佐伯郡にある、日本三景の一、島の最高処は弥山の頂上で海抜千五百尺あり、北の小湾に官幣中社厳島神社があり、朱塗の殿堂海に臨んで荘麗絵の如くである、古く厳島明神といひ市杵島姫命、田心〈たごり〉姫命、端津姫命の三女神を祀り、推古帝の御代三女神の神話に依つて神殿を造営せられたといふ、清盛はじめ平家の一門が崇拝したこと史に明かであり、海中の大華居や、長い廻廊、高舞台平舞台、百八の鉄灯籠等、周囲の風光と照応して美観極りない。
あきのくにいつくしまの社は、うしろは山深くしげり、まへは海、左は野、右は松原なり、東の野に清きながれあり、これを御手洗といふ、御社三所おはします、またすこし前の方に引退て南北ヘ三十三間、東西は二十五間の廻廊侍る、潮の満つときは、廻廊の板敷の下まで海になる、汐のひく時は白砂五十町ばかりなり、然はあれど汐のさしたる時まゐれば、ふねにて廻廊の中までまゐるなり、気高くいみじき事たとへもなく侍る、但いかなる御事やらん、御簾のうへには御正体の鏡をかけまゐらせで、御簾の下にかけまゐらするなり、かの御神は女体の神にておはしますなれば、かくはならはせるやらん、おほかたは御社は山上にあかり、廻廊は平地にあり東西南の三方晴れわたり、ことに心もすみ侍るところに鹿を狩ざれば、御山には小鹿なき、草に露おち虫のこゑさかりに侍りし、なに心なき人もこの社にては心のすむなるとこそ申伝へて侍る。(西行撰集抄)
『東洋画題綜覧』金井紫雲
六十余州名所図絵 安芸 厳島 祭礼之図 広重