牛若丸 うしわかまる【平治物語 巻之三 牛若奥州下りの事】 鞍馬天狗 くらまてんぐ 橋弁慶 はしべんけい

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月百姿 五条橋の月 月岡芳年

うしわかまる(牛若丸)

牛若丸は源義経の少名なり、父源義朝平治の乱に敗北するや、牛若亦将に刑せられんとして特に赦されて鞍馬寺 に入る、十一歳の時、慨然として父祖の恥を雪がんとし、日夜山に入りて武技を習ふ、世に僧正坊なる天狗に導かれて武技を励み、兵法を授かると伝ふ、又京に出でゝは五条橋上に武蔵坊弁慶が百人斬を志して来れるに会ひ、之と相撃ち巧に翻弄して遂に之を臣とすという、是等のこと武家時代に於て好画題として画かれたる所なり。

 

『画題辞典』斎藤隆

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舎那王於鞍馬山学武術之図 月岡芳年

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牛若鞍馬修行図 歌川国芳

鞍馬山 くらまやま

 平治の乱で敗れた源義朝の子牛若は、鞍馬に入山、東光坊蓮忍の弟子覚日の弟子となり、遮那王と号し学問に励む。夜は「人住み荒らし偏へに天狗の住み家となりて、夕日西に傾けば物の怪おめき叫ぶ」(『義経記』)僧正ヶ谷で草木を相手に武芸を稽古するとか、『源平盛衰記』には「弓箭・太刀・刀・飛越・力業などをして谷峰を走り」、『京師本平治物語』には「天狗・化物の栖家へ夜な夜な行きて兵法を習ふ」等とあって、直接天狗に教えを受けたとは明記していない。ところが、たとえば、謡曲鞍馬天狗」では「この山に年経たる大天狗」から兵法の伝授を受け、舞曲「未来記」では「愛宕の山の大天狗太郎坊」をして義経の未来を語らしめ、天狗の法を授かるといった例が示すように、「愛宕・高雄の天狗共」「鞍馬天狗僧正坊」「大天狗太郎坊」と具体名がつけられるようになり、僧正ヶ谷は天狗の住む地と発展、この地で牛若に兵法を伝授するなど、鞍馬天狗説話は時代が下降するに従い次第に発展していく。

 

『日本伝奇伝説大辞典』角川書店 1986

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能楽百番 鞍馬天狗 月岡耕漁

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能楽図絵 鞍馬天狗 月岡耕漁

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洛中洛外図屏風(舟木本) 岩佐又兵衛

鞍馬天狗(くらまてんぐ)

鞍馬寺東谷の僧(ワキ)が稚児たち(子方)と西谷で花見を楽しんでいるところへ、ひとりの山伏(シテ)が闖入する。興を冷まされた僧は稚児たちを連れて帰り、あとに牛若(子方)だけが残る。山伏と牛若は花見の友となり、京都周辺の花の名所を巡る。山伏は実は鞍馬山に住む大天狗であった。平家討滅の志を抱く牛若に、天狗は、明日参会して兵法の奥義を伝授しようと告げて飛び去る(中入)。武装を整えた牛若(後子方)が待つところへ、諸山の天狗を率いて現れた大天狗(後シテ)は、兵法を伝授し、将来の守護を誓って、名残を惜しみつつ去っていく。宮増作か(『能本作者註文』など)。

 

『岩波講座 能・狂言 Ⅵ能鑑賞案内』岩波書店 1989

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武蔵坊弁慶 御曹司牛若丸 五渡亭国貞

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義経一代記之内 九回 五条の橋に牛若丸武蔵坊弁慶を伏す 広重

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義経一代記五条ノ橋之図 歌川国芳

五条の橋 ごじょうのはし

 牛若丸(源義経)が、夜ごと通行人から太刀を奪っていた武蔵坊弁慶と出会い、うち負かした場所として知られている。

 しかし、二人が出会った場所が五条の橋以外とする伝承もある。この物語は大別して二系統がある。それは、この二人が斬り合いになる理由として、弁慶が千振りの太刀を集める志を立て、千本目に牛若丸の黄金作りの太刀を奪おうとしたもの(『義経記』『弁慶物語』など)と、牛若丸が亡父源義朝の孝養のために千人斬りの悲願を立て、千人目に弁慶と出会うもの(「橋弁慶」「天狗の内裏」など)がある。また、牛若丸千人斬りの方が、五条の橋で一度の対決なのに、弁慶太刀奪いの方は、六月十七日に五条天神の参道、六月十八日に清水寺舞台(『義経記』)とか、六月十五日に北野天神、七月十四日に法性寺境内、八月十七日には清水寺舞台から五条の橋へ移って斬り合っている(『弁慶物語』)。都人から親しまれている五条天神と清水寺は、五条の橋をはさんで、東西の対称的位置にあり、五条の橋は両者を結ぶ要衝であった。

 

『日本伝奇伝説大辞典』角川書店 1986

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能楽図絵 橋弁慶 月岡耕漁

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橋弁慶 月岡玉瀞

橋弁慶(はしべんけい)

武蔵坊弁慶(シテ)が五条の天神へ丑の刻参りをしようとすると、従者(トモ)は、最近五条の橋に何者とも知れぬ少年が現われて 、人を斬りまわるというから思いとどまるようにと言う。弁慶は聞き逃げは無念と、この者を討ち取る決意で橋に向かう(中入)。少年牛若丸(子方)は、母の言いつけで明日は鞍馬寺に入ることになり、今夜が名残と五条の橋に出かける。弁慶(後シテ)が大長刀(なぎなた)をかついで現れる。牛若は長刀の柄元を蹴上げて挑発し、二人の間で激しい斬り合いが行われるが、牛若の早わざにさすがの弁慶も抗しきれず、ついに降参する。弁慶は少年が牛若であると知り、主従の契りを結ぶ。

 

『岩波講座 能・狂言 Ⅵ能鑑賞案内』岩波書店 1989