篝火 かがりび【源氏物語 第二十七帖 玉鬘十帖の第六】

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源氏物語画帖 篝火 土佐派

第一章 玉鬘の物語 第二段 初秋の夜、源氏、玉鬘と語らう

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 篝火 土佐光信

篝火にたちそふ恋の煙こそ世には絶えせぬ炎なりけれ

(第一章 玉鬘の物語 第二段 初秋の夜、源氏、玉鬘と語らう)

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源氏物語絵色紙帖 篝火 詞青蓮院尊純 土佐光吉

篝火にたちそふ恋の煙こそ世には絶えせぬ炎なりけれ

いつまでとかや。ふすぶるならでも苦しき下燃えなりけりと聞こえたまふ女君あやしのありさまやと思すに

行方なき空に消ちてよ篝火のたよりにたぐふ煙とならば

第一章 玉鬘の物語 第二段 初秋の夜、源氏、玉鬘と語らう

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源氏物語画帖 篝火

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篝火

かゞりび(篝火)

篝火は源氏物語の一巻なり。玉蔓の君を源氏御子分とされしも、実子ならねば心の内には昔の夕貌のかたみにも見ばやなと思召され、夏の夜の月なき頃、すこし曇りしに篝火焚き、琴しらべ玉いて、源氏、

かゞり火にたちそふ恋のけふりして世には絶えせぬほのほなりけり

とよまる。琴を枕に諸共に添臥し玉うとなり

 

『画題辞典』斎藤隆

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げんじ五十四まいのうち 第二十七番 げんじ篝火 鳥居清倍

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源氏香の図 篝火 豊国

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風流略源氏 篝火 磯田湖龍斎

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見立源氏篝火 栄昌

 

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絵入源氏物語 早稲田大学図書館

第一章 玉鬘の物語 養父と養女の禁忌の恋物語

第二段 初秋の夜、源氏、玉鬘と語らう

 秋にもなった。風が涼しく吹いて身にしむ思いのそそられる時であるから、恋しい玉鬘の所へ源氏は始終来て、一日をそこで暮らすようなことがあった。琴を教えたりもしていた。五、六日ごろの夕月は早く落ちてしまって、涼しい色の曇った空のもとではおぎの葉が哀れに鳴っていた。琴をまくらにして源氏と玉鬘とは並んで仮寝かりねをしていた。こんなみじめな境地はないであろうと源氏は歎息たんそくをしながら夜ふかしをしていたが、人が怪しむことをはばかって帰って行こうとして、前の庭のかがりが少し消えかかっているのを、ついて来ていた右近衛うこんえじょうに命じてさらに燃やさせた。涼しい流れの所におもしろい形で広がったまゆみの木の下に美しい篝は燃え始めたのである。座敷のほうへはちょうど涼しいほどの明りがさして、女の美しさが浮き出して見えた。髪の手ざわりの冷たいことなどもえんな気がして、恥ずかしそうにしている様子が可憐かれんであった源氏は立ち去る気になれないのである。
「始終こちらを見まわって篝を絶やさぬようにするがいい。暑いころ、月のない間は庭に光のないのは気味の悪いものだからね」
 と右近の丞に言っていた。

「篝火に立ち添ふ恋の煙こそ世には絶えせぬほのほなりけれ


 いつまでもこの状態でいなければならないのでしょう、苦しい下燃えというものですよ」
 玉鬘にはこう言った。女はまた奇怪なことがささやかれると思って、

行方ゆくへなき空にちてよかがり火のたよりにたぐふ煙とならば


 人が不思議に思います」
 と言った。源氏は困ったように見えた。
「さあ帰りますよ」
 源氏が御簾みすから出る時に、東の対のほうに上手じょうずな笛が十三げんの琴に合わせて鳴っているのが聞こえた。それは始終中将といっしょに遊んでいる公達きんだちのすさびであった。
とうの中将に違いない。上手な笛の音だ」
 こう言って源氏はそのままとどまってしまったのである。

 

紫式部 與謝野晶子訳 源氏物語 篝火