梅枝 うめがえ・むめがえ【源氏物語 第三十二帖】

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源氏物語画帖 梅枝 土佐派

(第一章 光る源氏の物語 薫物合せ 第二段 二月十日、薫物合せ)

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梅枝

(第一章 光る源氏の物語 薫物合せ 第二段 二月十日、薫物合せ)

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梅枝 土佐光信

艶あるもののさまかなとて御目止めたまへるに

花の香は散りにし枝にとまらねどうつらむ袖に浅くしまめや

(第一章 光る源氏の物語 薫物合せ 第二段 二月十日、薫物合せ)

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源氏物語絵色紙帖 梅枝 詞日野資勝 土佐光吉

花の香をえならぬ袖にうつしもてことあやまりと妹やとがめむ

とあればいと屈したりやと笑ひたまふ御車かくるほどに追ひて

めづらしと故里人も待ちぞ見む花の錦を着て帰る君

(第一章 光る源氏の物語 薫物合せ 第四段 薫物合せ後の饗宴)

むめがえ(梅枝)

梅枝は源氏物語の一巻なり、正月晦日源氏六條院にて薫物合せし給ふことを叙す、明石の上の腹の姫の東宮の后に立給ふ頃のことなり、人々思ひ/\にたきもの合せ、かたかたより配りあり、其時朝顔の齋院の方より散り過ぎたる梅の枝に文結ひ付け、紺瑠璃の壺にたきもの入れ五葉の枝に付け、又白き壺にもたきもの入れ、梅を折結び付け、

花の香はちりにし枝にとまられどうつらん袖にあさくしまめや

とありしとなり、扨又源氏の方へ宮よりたきもの送り物とし玉ふ。

花の香をえなく袖にうつしてもことあやまりといひやとがめん

 

『画題辞典』斎藤隆

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源氏香の図 梅が枝 豊国

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紫式部げんじかるた 梅がえ 三十二 国貞

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風流略源氏 梅ヶ枝 湖竜斎

 

絵入源氏物語 早稲田大学図書館

第一章 光る源氏の物語 薫物合せ

第二段 二月十日、薫物合せ

 二月の十日であった。雨が少し降って、前の庭の紅梅が色も香もすぐれた名木ぶりを発揮している時に、兵部卿ひょうぶきょうの宮が訪問しておいでになった。裳着の式が今日明日のことになっているために、心づかいをしている源氏に見舞いをお述べになった。昔からことに仲のよい御兄弟であったから、いろいろな御相談をしながら花を愛していた時に、前斎院からといって、半分ほど花の散った梅の枝に付けた手紙がこの席へ持って来られた。宮は源氏と前斎院との間に以前あったうわさも知っておいでになったので、
「どんなおたよりがあちらから来たのでしょう」
 とお言いになって、好奇心を起こしておいでになるふうの見えるのを、源氏はただ、
「失礼なお願いを私がしましたのを、すぐにその香を作ってくだすったのです」
 こう言って、お手紙は隠してしまった。じんの木の箱に瑠璃るりあし付きのはちを二つ置いて、薫香はやや大きく粒に丸めて入れてあった。贈り物としての飾りは紺瑠璃こんるりのほうには五葉の枝、白い瑠璃のほうには梅の花を添えて、結んである糸も皆優美であった。
えんにできていますね」
 と宮は言って、ながめておいでになったが、

花の香は散りにしそでにとまらねどうつらん袖に浅くしまめや


 という歌が小さく書かれてあるのにお目がついて、わざとらしくお読み上げになった。宰相の中将が来た使いを捜させ饗応きょうおうした。紅梅がさね支那しなの切れ地でできた細長を添えた女の装束が纏頭てんとうに授けられた。返事も紅梅の色の紙に書いて、前の庭の紅梅を切って枝に付けた。
「何だか内容の知りたくなるお手紙ですが、なぜそんなに秘密になさるのだろう」
 と言って、宮は見たがっておいでになる。
「何があるものですか、そんなふうによけいな想像をなさるから困るのです」
 と言って、斎院へ今書いた歌をまた紙にしたためて宮へお見せした。

花のにいとど心をしむるかな人のとがむる香をばつつめど


 というのであるらしい。

 

紫式部 與謝野晶子訳 源氏物語 梅枝

 

絵入源氏物語 早稲田大学図書館

第二章 光る源氏の物語 明石の姫君の裳着

第四段 草子執筆の依頼

 いつもこんな時にするように、源氏は寝殿のほうへ行っていて書いた。花の盛りが過ぎて淡い緑色がかった空のうららかな日に、源氏は古い詩歌を静かに選びながら、みずから満足のできるだけの字を書こうと、漢字のも仮名のも熱心に書いていた。その部屋へやには女房も多くは置かずにただ二、三人、墨をすらせたり、古い歌集の歌を命ぜられたとおりに捜し出したりするのに役にたつような者を呼んであった。部屋の御簾みすは皆上げて、脇息きょうそくの上に帳を置いて、縁に近い所でゆるやかな姿で、筆の柄を口にくわえて思案する源氏はどこまでも美しかった。白とか赤とかきわだったひらは、筆を取り直して特に注意して書いたりする態度なども、心のある者は敬意を払わずにいられないことであった。

 

紫式部 與謝野晶子訳 源氏物語 梅枝