匂兵部卿 におうひょうぶきょう 匂宮 におうみや・におうのみや【源氏物語 第四十二帖 匂宮三帖の第一帖】

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源氏物語画帖 匂宮 土佐派

(第二章 薫中将の物語 第七段 六条院の賭弓の還饗)

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源氏物語絵色紙帖 匂兵部卿宮 詞花山院定熈

例の左あながちに勝ちぬれは例よりはとくこと果てて大将まかでたまふ兵部卿常陸宮后腹の五の宮と一つ車に招き乗せたてまつりてまかでたまふ宰相中将は負方にて音なくまかでたまひにける

(第二章 薫中将の物語 第七段 六条院の賭弓の還饗)

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匂宮 土佐光信

御子の右衛門督権中納言右大弁などさらぬ上達部あまたこれかれに乗りまじり誘ひ立てて六条の院へおはす道のややほど経るに雪いささか散りて艶なるたそかれ時なり

(第二章 薫中将の物語 第七段 六条院の賭弓の還饗)

におう‐みや にほふ‥【匂宮】(「におうのみや」とも)
[一] 「源氏物語」の登場人物。光源氏の孫。明石中宮と今上帝との間の第三皇子。薫とともに宇治十帖の主人公で、光源氏の色好みの面を引き継ぐ。薫が身体から芳香を発するのに対抗し、すぐれた香を衣にたきしめていた。匂兵部卿宮。
[二] 「源氏物語」第四二帖の名。薫一四歳の春から二〇歳の正月まで。源氏の没後、世人が匂宮と薫とを並称したこと、薫は自分の出生が不審で沈みがちであり、匂宮は薫に対抗するように花やかにふるまうことなどを中心とする。別名、匂兵部卿または薫中将。
 

 

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匂宮 土佐光信

絵入源氏物語 早稲田大学図書館

第二章 薫中将の物語 薫の厭世観と恋愛に消極的な性格

第三段 薫、目覚ましい栄達

第四段 匂兵部卿宮、薫中将に競い合う

この中将は若年ですでにあらゆる条件のそろった恵まれた環境に置かれていた。そしてそれに相当した優秀な男子でもあるのである。仏が仮に人として出現されたかと思われるところがこの人にあった。容貌ようぼうもどこが最も美しいというところはなくて、目を驚かすものもないが、ただえんで貴人らしくて、賢明らしいところが万人に異なっているのである。この世のものとも思われぬ高尚こうしょうな香を身体からだに持っているのが最も特異な点である。遠くにいてさえこの人の追い風は人を驚かすのであった。これほどの身分の人が風采ふうさいをかまわずにありのままで人中へ出るわけはなく、少しでも人よりすぐれた印象を与えたいという用意はするはずであるが、怪しいほど放散するにおいに忍び歩きをするのも不自由なのをうるさがって、あまり薫香たきものなどは用いない。それでもこの人の家にしまわれた薫香たきものが異なった高雅な香の添うものになり、庭の花の木もこの人のそでが触れるために、春雨の降る日の枝のしずくも身にしむ香を放つことになった。秋の野のだれのでもない藤袴ふじばかまはこの人が通ればもとの香が隠れてなつかしい香に変わるのであった。こんなに不思議な清香の備わった人である点を兵部卿ひょうぶきょうの宮は他のことよりもうらやましく思召おぼしめして、競争心をお燃やしになることになった。宮のは人工的にすぐれた薫香をお召し物へおきしめになるのを朝夕のお仕事にあそばし、御自邸の庭にも春の花は梅を主にして、秋は人の愛する女郎花おみなえし小男鹿さおしかのつまにするはぎの花などはお顧みにならずに、不老の菊、衰えてゆく藤袴、見ばえのせぬ吾木香われもこうなどという香のあるものを霜枯れのころまでもお愛し続けになるような風流をしておいでになるのであった。

 

紫式部 與謝野晶子訳 源氏物語 匂宮