嵐山 あらしやま 猿聟 さるむこ
嵐山 渡月橋
京都名所之内 あらし山満花 広重
諸国名橋奇覧 山城あらし山吐月橋 北斎
あらしやま 嵐山
1
嵐山は京都の北嵯峨にあつて、大堰川に臨んだ洛外第一の名勝、満山松の緑美しく、その昔、亀山院の御宇、吉野に擬して千株の桜を移してから、桜の名所となつた。
あらし山是もよしのやうつすらむ桜にかゝる滝の白糸 後宇多院御製
思ひ出づるひとも嵐の山のはにひとりぞ入りし有明の月 法印静賢
あらし山麓の花の梢までひとつにかゝる峰のしら雲 前大納言為氏
2
謡曲の名、勅使嵐山に至つて神の奇特に逢ふことを骨子とし花の来歴を説き、名所の景を写し、君が代を祝する、春の祝言能として行はる。元安作、一節を引く、
「花守の、住むや嵐の山桜、雲も上なき梢かな、「千本に咲ける種なれや、「春も久しきけしきかな、「是は此嵐山の花を守る夫婦のものにて候ふなり、「それ円満十里の外なれば、花見の御幸なきまゝに、名におふ吉野の山桜、千本の花の種とりて、此嵐山に植ゑ置かれ、後の世までの例とかや、是とても君の恵かな、「げに頼もしや御影山、治まる御代の春の空、さも妙なれや九重の、内外に通ふ花車、轅も西にめぐる日の、影ゆく雲の嵐山、戸無瀬に落つる白波も散るかと見ゆる花の滝、盛久しき気色かな。(嵐山)
『東洋画題綜覧』金井紫雲
伊達家本『能絵鑑』嵐山
能楽図絵 嵐山 耕漁
嵐山(あらしやま)
勅使(ワキ)が嵐山の桜を見に出かけると、花守の老人夫婦(シテ・ツレ)が花のもとを清め、花に礼拝しているので、そのいわれを尋ねると、この桜は吉野千本の桜を移植したものなので、吉野山の神々が影向すると語り、実は自分たち夫婦も、木守・勝手の明神だと明かして、立ち去る(中入)。やがて夜になると、木守・勝手の明神(後ツレ)が現われ、花をめで舞を舞うと、蔵王権現(後シテ)も来臨し、三神は実は一体であると言い、国土と衆生を祝福する。金春禅鳳作(『能本作者註文』『歌謡作者考』)
狂言 猿聟 耕漁
猿聟(さるむこ)和泉流
吉野に住む聟猿が、姫猿や供猿たちを連れて嵐山の舅猿の所に聟入りをして、ともに謡い舞う。やりとりの多くを「キャッキャッ」という猿の鳴き声で表現し、にぎやかな猿の聟入りを描く。
余説
本曲は能「嵐山」の替間としても演じられる。大蔵流では替間としてのみ演じる。